「四月と十月」創刊20周年巡回展_日報extra
先週金曜に「四月と十月」創刊20周年記念展の巡回先、名古屋ON READINGへ設営の手伝いで日帰りで行ってきた。同人への報告(日報)を書いたので、同展の宣伝もかねてここに転載する。
「四月と十月」創刊20周年巡回展_日報extra
4 月 23日(金)
今日はON READING へ。「四月と十月」創刊20周年巡回展の設営で日帰り名古屋。
子どもを学校へ送り出しわたしも出発。9:15発の高速バスはたった3人の乗客。信楽あたりの山は新緑におおわれ、ところどころ薄紫が挿すのは藤の花だった。
前夜、「四月と十月」同人メールに次のように記した。
京都も緊急事態宣言がふたたび出されようとしていますが、京都府知事が先手を打ってゴールデンウィークの観光客の流入を未然に防ごうという判断だと聞きました。それでも大阪と接していて、京都も感染者数がジリジリと上がってきています。/いま京都から名古屋に行くのも冒険で、黒田さんたちに負担をかけていないか少し心配ですが、とにかく対策を万全にして出かけます。
と、県境を越えることにこれほど制約を感じることはこれまでなかった。
翌朝、「名古屋への搬入、なんだか密入国をするかのようですね」と牧野さんからメールが入って、これはボスからの重要任務なのだと気が引きしまり、調子に乗って、「はい密入国です。/取引のブツは美術品。コードネームは「四月と十月」です。/詳細な指示をありがとうございます。あとは現場で勘を働かして任務を遂行してきます!」と、バス車中から返信していた。
すると、牧野さんから「扉野さん、今日は袈裟をお脱ぎになって、一日トム・クルーズですな」、ニューヨークの早川さんからは「緊急事態宣言地帯に挟まれての綱渡り、こちらも緊張してしまいます」とメッセージが寄せられた。早川さんは続けて「名古屋は飾っていただける作品数が多いので、ハンギングには、時間がかかることと思います」と、手に汗を握るミッション・インポッシブルを具体的に示してくださり、ON READINGの設営に向かう我に返り、文面にあった「ハンギング」という耳なれない言葉に今回の越境の足がかりが見えるような気がして、早川さんへまじめに返事をしたためる。
じつはこうしたタイミングで越境することに、この機を失したら見られなくなるものがあるような気がして出かけました。/何も変化ないかもしれません。/もしかして軽率な振る舞いだったと思い知らされるかも知れない。/でも普段より腰高になって見に行った方が、戻った時の視界が広いように思います。/ハンギングって釘を打つポイントに全てがかかるみたいで、設営より実感がでる言葉ですね。なるほど。/名古屋へ向かう足場が見えてきました。
昼前に名古屋駅ビックカメラ前に到着。ON READINGに向かうには時間が早いので今池のシマウマ書房に寄り道する。前に訪れたのは12年前、その頃は本山に店があった。
12年前とはっきり記憶するのは、その時シマウマ書房であったトークイベントにわたしも参加して、いっしょに登壇する書物雑誌『sumus』の同人に近々再婚する報告をしていちどうが驚くということがあった。その時の雑誌同人のなかに、現在『四月と十月』で連載をする岡崎武志さん、同じく24号、25号で寄稿のある南陀楼綾繁さんがいた。
荻原魚雷さんのブログ文壇高円寺に当時のトークイベントの情報を見つけたので引いておく。
◎BOOKMARK NAGOYAイベント
◆「東西古本よもやまはなし sumusの集い」
日時:3月20日(金)午後6時〜
会場:シマウマ書房
参加費:1000円
西暦2009年のことだった。
魚雷さんがトークの感想でわたしのことを記してくれている。
同人が東京と京都に離れて住んでいたこともよかったともおもう。
扉野さんがそうなのだけど、京都の「sumus」同人は、ものすごく時間をかけてひとつのことをほりさげる。
そういうふうに書かれたものを読んだり、会って話したりしていると、知らず知らずのうちに自分が効率とスピードを追求し、世の中の変化にふりまわさていたことに気づかされる。
「ブックマーク・ナゴヤ」
いまも「同人が東京と京都に離れて住んでいた」という同じことが「四月と十月」で起こっていることがおもしろい。「四月と十月」の場合、もっと広く「同人が東京と京都と三島と高知と北九州と奄美大島と倉敷とニューヨークとに離れて住んで」いる。 名古屋にわたしがスッと行くことができたのも、どこか世の中の変化に一歩遅れているからではないだろうか。離れて住むことで時差が生じるのかもしれない。
BOOKMARK NAGOYAというのは、その前年(2008年)に「本で街をつなぐ」ブックイベントとして始まった。いまネットで調べると2017年、第10回で幕を下ろした。驚いたのは、BOOKMARK NAGOYAの立ち上げにON READINGの黒田杏子さんが深く関わっていたことである。
初回を振り返り黒田さんは「それぞれの書店で、イベント、フェアなどを開催していたがPRに苦労していた。当時、名古屋ではイベントもメディアも少なかった。みんなで使える大きなハコみたいなのがあったらいいなと考えたことがきっかけ」と話す。「当時は同業者(書店)同士が集まって一つの企画を作ることが珍しかった。横のつながりをつくれた」とも。
「名古屋市内でブックイベント ブックマークナゴヤ 10回目で最終回」
名駅経済新聞ホームページ https://meieki.keizai.biz/headline/2447/
もしかすると黒田杏子さんとは初対面ではなかったのかも。時を超えて人と人とが場所や紙の上(誌面)で結ばれていることに不思議な縁を感じる。おそらく、そのころから黒田杏子さんは人と人とを結びつける回路を作ってこられたのだろう。
シマウマ書房の寄り道からずいぶん横道にそれてしまった。シマウマ書房の店主、鈴木創さんとも再会し(お互い顔を忘れていた)、10年の歳月を時々沈黙をはさみながら思いあったのだが、それを書いていては先に進めない。今池から地下鉄東山線で東山公園下車、2番出口より徒歩1分にON READINGはあった。
と、ここまで書いて夜も深まってきた。昨日の午前中、「ON READING搬入報告」として同人メールに送信した内容をペーストして設営、いやハンギングの様子の一端を知っていただきたい。
設営を終えてゆっくり店を見て、お茶して帰るくらいの余裕で始めましたが、19時35分発の帰りのバスぎりぎりまでかかってしまいました。帰宅すると牧野さんからまだ名古屋にいるのではないかと心配して電話がありました。早々に報告ができず、ご心配をかけました。
展示は、いちどは同人作品をすべて展示しようと開封したのですが、壁に沿って並べてみると、あまりにも窮屈になりそうで2点にしぼっています(作品番号の若い順に2点)。もし3×23の69点を展示することになっていたら、たぶん京都に帰れなかったでしょう。
でも、黒田義隆さんとは左右の壁に別れて黙々とハンギングに徹する充実の時間でした。背中で会話ができました。
杏子さんが来られるとおしゃべりに花が開き、牧野さんの隣に休ミちゃんの絵を置く理由をとくとくと説明したりしました。
日報としては、私事に関することを長々ととくとくと書いてしまいました。
さきほど杏子さんのことを「人と人とを結びつける回路」を作ってこられたと書いたけれど、ON READINGのおふたりは人が往来する回廊(ギャラリー)の壁に黙々と人が立ちどまり、手がかり足がかりとなる釘をうち、そこに見るものの心象を写す絵をハンギングしてきたのだろうと思う。
「四月と十月」創刊20周年記念 巡回展
2021年4月24日(土)~5月9日(日)
ON READING GALLERY
〒464-0807 名古屋市千種区東山通5-19 カメダビル2A & 2B
TEL/FAX: 052-789-0855
MAIL: info<at>elvispress.jp
営業時間 / 12:00 – 20:00
定休日 / 火曜日
〈参加作家〉
稲垣えみ子・瓜生美雪・おおらいえみこ・オーライタロー・加藤休ミ・金井三和・作村裕介・白石ちえこ・鈴木安一郎・髙橋収・田口順二・扉野良人・浜中由紀・早川朋子・福田紀子・牧野伊三夫・松林誠・松林由味子・松本将次・三梨朋子・ミロコマチコ・山﨑杉夫・好宮佐知子